ざわざわ・・・ざわざわ・・・
耳に入ってくる騒音も、どこか心地よい。
そう形容するのが適切だと思える空間だった。
独特の雰囲気に、若干暗い照明。
この劇場と言う場所はいい場所だ。
劇場というものに来たのは初めてだが、中々に良い。
ある日突然懐かしい名前から手紙が来たと思ったら、劇団初公演のチケットが入っていた。
まさか「あいつ」が劇団を選んだとは・・・とも思ったのが、あいつがそれを好んだんだろう。
それが、あいつの選んだ道なのだろう、と昔を思い出しながら考えていた。
急に照明が落ち、周囲が暗くなる。
そろそろ始まるようだ。
ガシャン!と音を立ててスポットライトが一点にあたる。
「皆様、この度は我が劇場、silent placeにお越しいただきありがとうございます」
タキシードを着てシルクハットをかぶり、仰々しく挨拶をする男が見えた。
「私はこの劇団の団長を務めております、橘和板と申します」
「今回は初演と言う事で、団員一同馴れない点も思いますが、ご容赦くださいませ」
「では、開始したいと思います。ここにたどり着いた皆様に幸福が訪れるのを祈りながら」
スポットライトが落ち、再度暗闇に落ちる。
夢を見つけた男のはなし
〜新たな出会い〜
これは、本当にあったかも知れない話・・・
舞台は、とある孤島の、とある施設。
名前は「silent place」。
「静かな場所」の意味を持つこの場所のお話。
これからお話しするのは、ここで起きた不思議なとっても不思議なお話。
では、少し覗いてみましょう・・・
――――僕は、間違えたのだろか――――
なぜ、僕はここに居るんだろう?
分からない、わからない、ワカラナイ……
「…ん?」
目が覚める。
今、俺は何を見ていたのだろうか?
何か、大切な「なにか」を見ていた気がするんだが…気のせいだろうか。
ポーン。
『まもなく、当機はケープタウンに到着します。またのご利用、お待ちしております』
「おっと、そろそろ到着か・・・どんな場所なんだろうか?」
俺は、国連が発行したパンフレットに目をやる。
『silent place』。
直訳で、静かな場所。
中高時代は部活三昧だった日々。
体力にしか自信のない俺は、進路に迷った。
そんな俺が選んだ道が、海外留学。
普通なら考えつかない考えだろう。
だがそこは大丈夫、日本村だから英語は必要ない。
南アフリカ大陸の南西にある島への留学。
正直、不安でいっぱいだ。
でも、もうここまで来た。
最早守っていたって仕方がない。
そう決意し、俺は飛行機を降りるのであった――――
ケープタウンに到着した俺は、とある人物に電話をかけた。
silent placeに滞在している人であり、これから俺がとても世話になるであろう人だ。
PPPP…PPPP…
何度かのコールの後、相手が出る。
『hi,hello』
「えっ?」
どういう事だ?俺がかけたのは日本村のハズ・・・
『Who’s calling,please?』(どちらさま?)
どういう事か考えているうちにも、向こうの会話は続く。
番号を間違えたか、と切ろうとすると・・・
『芳野さん?いい加減にしないと切られますよ?』
電話口から聞こえた日本語。そして聞き覚えのある名前。
『ん、なんだ?もしかして新入り君かい?』
「あ、はい。今ケープタウンに着いたんですが・・・」
『ああ、それはすまなかったな、勘違いしてた』
「いえ、大丈夫ですよ」
『そうかい?じゃあこちらから迎えを出すから。今、空港だな?』
「そうです、3番ゲートのすぐ近くです」
『だったら、近くに第5ゲートがあるはずだ。そこから外に出て待っててくれ』
「はい。どのくらいかかりそうですか?」
『もう迎えの奴らは本島に上陸したらしいからな・・・10分ぐらいで着くだろう。写真を渡してあるから、
君の事は分かると思う』
「分かりました。じゃあ第5ゲートの外で待ってますね」
『あ、そうだ。もしお前に話しかける人間が居たら、まずsilent placeのカードを見せてもらえよ?
知らねー人間についていって、身ぐるみ剥がされて捨てられることもあるんだからな?』
「は、はぁ・・・気をつけます。それでは」
ピッ、と通話を切り、第5ゲートへと移動する。
5分程すると、日系3世のような人が話しかけてきた。
「マッタカイ?」
真っ黒の肌に、ニッコリ笑うと見える白い歯が印象的だ。
「ムカエニキタゼ?」
「あなたが・・・これからよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。
「マ、クワシイハナシハクルマノナカデ、ナ?」
「はい。それじゃあ」
陽気な彼に肩を回され、付いていく。
そんな時だった。
「Hey,please wait」(ちょっと待ってくれ)
交差していた肩に、手を止められる。
「oh? What do you want?」(何の用だい?)
迎えの人(トムと名付けよう)が後ろを振り返る。
「I think,I know that man by sight」(私はその男を知っている様に思うんだが)
「Please let me see it?」(見せてくれないかい?)
「Why do I have to do so?」(なぜその必要がある?)
「Basically you cannot force me to show how the face alike.」(そもそも、あなたに見せる必要がない)
英語の会話が続く。
当然俺が理解できるはずもなく、黙っているのだが。
どうやらトムは俺の顔を後ろの奴に見られたくないらしい。
振り向こうとすると、その動きをトムの手で制される。
「Served… Then no compensation.」(そうか・・・なら仕方ないな)
「Get it? Now that we got to move on.」(そうだろう?じゃあ俺たちはもう行くぜ)
「I don’t feel good about using this… but there’s no another choice.」(あまり使いたくは無かったが・・・仕方がない)
「Do you have anything else?」(まだ何か用か?)
「This is what shows who I am.」(俺はこういう者だ)
「Oops… Police…」(なっ・・・警察か・・・)
「Now do you want to show it, otherwise you want to come with me toward the police station?」
(さぁ見せてもらおうか?拒否するのなら署にでも行くかい?)
その瞬間、トムは俺を突き飛ばし、何処かに去っていってしまった。
「おい、ちょっと!」
「君、大丈夫かい?」
声をかけられ、始めて後ろに居た人の顔を見る。
トムとは違い、日本でよく見かける程度に焼けた肌。一目で日本人だとわかる。
「あんた、誰なんだ?俺は迎えに来たあの人を・・・」
「なんだ、まだ気づいてないの?君、もう少しでラチられるとこだったんだぞ?」
「えっ・・・」
「芳野さんから聞かなかった?silent placeカードを持ってる人以外には着いて行くなって」
そういえば、電話でそんな事を言っていたような・・・
「ここいらは平和大国日本とは違ってな。ちょっと待ってよ・・・ああ、これだこれ」
その人が鞄の中からプラスチック製のカードを取り出す。
そのカードを見てみると、そこには「silent place」の文字が。
「じゃあ、あなたが本当の迎えの人?」
「そうだ。君を連れてこうとした奴らはここいらは有名でな。
君のように始めてこの国に来たとかいう人間を狙う集団なんだ。
しかもターゲットによって人数を変えてきやがる。
まぁそれなりに頭が切れるリーダーでも居るんだろう。」
つまり本当に危なかったんだろう。あんなのが居ない日本という国がどんなに平和なのか分かる。
「さて、そろそろ島に行くか・・・お前、名前は?」
「あ、まだでしたね。高賀魁二です」
「高賀、か。俺は東雲莉音だ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
じゃこっちだ と言いながら、歩いていく東雲さんの背中を追うのであった・・・
幕が閉じていき、会場の照明が落ちる。
どうやら今日はここまでのようだ。
幕の前に人影が登場し、そこにすぐスポットライトがあたる。
団長、橘和板だ。
一礼した後、和板が話し始める。
「皆様、まずはここまでのご清聴ありがとうございました」
パチパチパチ・・・と、幕が降りた時と同じぐらいの拍手が上がる。
初演でここまでの評価。
舞台には詳しくないが、かなり大きい。
これくらいあれば大したものだろう。
「私はじめ団員一同、この日のために長い時間努力を重ねてきました
今回は初演ということで、主人公がなぜsilent placeに赴くことになったのか、等々
個人的にはプロローグ的な存在と考えています。
これから一体どうなっていくのか?楽しみにしておいてください。
ではここで、本激を作るに当たって協力してくださった方を紹介します。
パンフレットにも表記してありますが、このsilent placeという施設は存在します。
今回、そちらから何名か派遣していただき、演技指導など多くの協力を頂きました。
その中からひとりを紹介します。silent place管理人の芳野一樹さんです」
団長が右に向かって手を出す。
観客による拍手を受け、舞台袖から男が出てきた。知った顔だ。
「紹介に預かりました。芳野です。
私は普段はもう一人の管理人と共に細々と管理職をしているのですが、その際に話を受けました。
実は団長の橘とは高校時代のクラスメイトであり、
久しぶりの旧友からの連絡がここまで大きくなるとは思いませんでしたがね。うれしい悲鳴です」
「最後に、先程橘が言ったようにsilent placeは実在します。
今後出てきますが、しっかりとした理念があります。
みなさん、知ってください。私たちは生きています。そして、広めてください。
ひとりでも多くの方が我々の事を知っていただき、何かを考えていただければありがたい」
そう言いおわり、団長にアイコンタクトを送った。
「ありがとうございます。一口にsilent placeについて纏めた物を掲載してありますので、
お帰りの際に一読して頂けると嬉しいです」
「では最後に、今日の劇のキャストを紹介します」
その言葉を合図に、幕が上がる。
舞台に立っているのは先程劇をしていた面々だ。
「高賀魁二役、灰賀誠二」
一歩前に出て、礼をする。男らしい礼だ。
「東雲莉音役、東條朱鳥」
一歩前に出て、こちらも礼。
先ほどとは違い、柔らかい礼だ。
「拉致グループの一員役、ロイド・フィムル」
礼をしながら一歩前に。あまり礼になれてない様な感じだ。
「最後に、電話口にて声のみ出演。silent place管理人芳野一樹役、芳野一樹」
笑いが起こる中、聞いていなかったのか、慌てて芳野が出てくる。
頭に手を当て、はにかみながら礼をする。
ちょっとフランクすぎやしないだろうか?ま、プロじゃないんだ。大丈夫だろう。
「ではこれにて閉幕とします。これからも応援、よろしくお願いします!」
その言葉と共に、スポットライトが消える。
数秒後、全体の照明がつく。
「さて、と・・・」
もう一度、和板から送られてきた手紙を見返す。
ワープロで書かれた招待分の下に手書きで、
『終わった後、あの店に来てくれ。3人で飲もうじゃないか』
と、あった。
カランカランと、扉を開けると懐かしく心地いい音。
しばらくきて無かったから、店の中を見回してみると懐かしく感じる。
「おーい!こっちだ!」
手を上げてこちらを呼ぶ声。
そちらに向かい、空いていた席に座る。
「ま、お疲れさん。和板団長?」
「おう、ありがとよ・・・だが、和也に団長と呼ばれるとどうもなぁ」
「はは、いいじゃないか。本当に団長になったんだから」
「いやいや、俺としてはsilent placeをあそこまで大きくする方がすごいさ」
「まぁ、そこは自分でも驚いてるよ。
あいつの頑張りと、国連に認可された事が大きいだろうな」
橘、芳野、岡崎。
俺たち三人は、高校時代の仲間だ。
それぞれがそれぞれの夢を追いかけ、必死に生きてきた。
和也は、自分の表現し切れない考えを他人に伝えること。
一樹は環境問題の根本的な改造。
俺は困ってる人間を兎にも角にも助けたかった。
三人とも、夢を追う過程で絶望したこともあった。無力を感じたことだってあった。
でも、それでも夢を諦めることはなかった。
全員が叶えたかったのだ。
どんな形で成ろうとも、叶えたかった。
その結果が「今」なのだろう思った。
和板は劇団団長。
一樹はsilent placeの管理人。
俺はこの街で、迷える少年少女達の相談役をやっている。
「俺はさ・・・」
酒に酔ったのか、少し赤くなった顔で和板が言う。
「もっと、やるんだ。劇団員達と・・・いや、皆で、色んなことをやるんだ。」
高らかに宣言した訳ではない。なのに、和板の目は燃えていた。
「って、和板?もう寝たのか?」
こいつはかなり酒に強かった記憶があるが・・・どういう事なのだろう?
「そりゃあ、もう一人でワイン三桁は空けちゃってるからな。ぶっ倒れない方がおかしいさ」
「三桁!?一体どうしたんだ?」
「嬉しかったんだろうよ。高校の頃からずっと言ってた夢が叶ったんだからな」
「にしても三桁は飲み過ぎだろう・・・まぁ昔から酒は強かったと思うが」
「もう大丈夫さ。俺達は二人で静かに飲もうや。な?」
「ま、そこは同意だな」
互いのグラスに酒を注ぎ合い、二人で飲む。
「しかし、日本に戻ってきてるとはな思ってなかったよ」
「最初は出演する予定なんて無かったんだけどな。急に生で電話出演してくれというんだから」
「なるほど、和板らしいな」
「まったくだ」
そこで会話が途切れる。心地良い静けさだった。
「さて、と」
俺は立ち上がり、
「そろそろ行くよ」
「おや、もう行くのかい?忙しいみたいだな」
「嬉しい悲鳴だよまったく」
少し多めに代金を机の上に置き、店を立ち去る。
空を見上げると、星が輝いていた。
そんな時だ。
ふと思い出す。
『和也!俺はやるぞ!必ず、必ずやってみせる!
世界の何処かにある、俺の考えを他人に完璧に表現できるもんを!』
振り返り、未だ寝ている和板を見る。
(おめでとう、和板・・・)
探していたものを見つけていた親友に、祝福の言葉を送るのだった。
あとがき(サイト公開時)
初めて一次創作であるこの作品ですが、2つの物語が同時進行していきます。
正直少し辛いのですがそれとなく頑張ります(ぁ
※サイト公開時に改行等々本当に軽い添削だけ行いましたが…まだまだと感じます。
また時間がある時に添削をすると思いますが、その際はよろしくお願いします。