「む、むむむ…」

私、岡崎巴は自室にて悩んでいた。

我が父、岡崎朋也の誕生日プレゼントについて、だ。

私の両親の誕生日は、かーさんが10月14日に対してとーさんが10月30日と日付が近い。
なので、我が家ではいつの頃からか誕生日パーティーは合同という風になっている。

その合同誕生パーティー自体は、既に先日、かーさんの誕生日である14日に行われていて、その時にかーさんへのプレゼントは既に渡してある。(かーさんの好きな熊のブローチを渡した。朋幸はいつも通り何かよく分からないものを渡していたが)

だが、プレゼントぐらいは当日に、という我が家のしきたりに則って、とーさんへのプレゼントはまだ渡してない。というか決めてすらない。

何を渡すべきか…悩んでしまう。

「わたしのかーさんをもっていってしまうとーさんだからな…なにかからいものでもわたそうか」
とーさんの嫌いな辛いものを…と思ったが、折角の誕生日にそれは嫌なものだ。やめておこう。

「だれかにきいてみるか…とーさんのことをよくしってるひとは…」

去年の誕生日に「ひとりでそとにいってもいいけん」を貰った私は最強だ。早速出かけることにした。


































ともえのゆーうつ












「あら、巴ちゃんじゃない。いらっしゃい」

私は幼稚園でお世話になった、杏先生の家にやってきた。

杏先生は高校時代からのとーさんとかーさんの事を知っていたらしいし、正に適任のはずだ。

「それで、今日はどうしたの?」

いつものぽにーてーる(かーさんが一度やっていた時に名前を聞いた)を解いていた杏先生は、私を家に上げてくれた。

「こんど、とーさんのたんじょうびなんだ」

「そうね。朋也の誕生日は30日だし」

「…それで」

「それで?」

「…わからないんだ、なにをわたせばいいか」

それを言うと、杏先生は全部分かった様な顔をした。

「そうねぇ…朋也が好きな物、って言えば簡単だけど、それも分かんないのよね?」

こくん、と私は頷く。

「…いままでかーさんをとりあいつつも、ここまでそだててくれたとーさんのすきなものもわからない。
まったく、ひどいむすめだなわたしは」

「へ?巴ちゃん?どうしたの?」







「こんなわたしをみたらとーさんとかーさんはどうおもうだろうな。とーさんのすきなものもわからないなんて、いったいどういうことなんだとおこってしまうかもしれないな。そうしてわたしはじょじょにはなされていくんだろう。いつのまにかわたしはなおゆきおじーちゃんのところにすむことになるんだ。そしてふたりはこどもはともゆきだけだったとにんしきしだすんだ。そしてわたしはとしおいたおじーちゃんとともにいきていくのだろうな…」







「巴ちゃーん 帰ってきなさーい」







「もしかしたら、とーさんとかーさんがけんかをはじめてしまうかもしれない。わたしのこそだてについてはなしあっているうちにけんかがはじまるんだ。どうしてあんなそだてかたをしたんだ、こそだてはいっしょにといっていたじゃないか、そしてふたりははなればなれになってしまうんだな。わたしとしてはかーさんのほうについていきたいが、はなればなれになってしまうげんいんになったわたしをみるのはさぞかしいやなことだろう。わたしはどこかのしせつにいれられて、かぞくがはなればなれになってしまうのかもしれない…」







「まったく、変な所まで似ちゃって…仕方ないわね。きょーせんせいチョップ!」



ゴスッ!

「いたっ!…あれ、わたしはなにを?」

「別に何も起きてないわよ?なーにもね」

杏先生がニコニコしてこちらを見ている…だが、若干頭に痛みがある程度で、おかしな所はない。

「ん、んー?」

私がなやんでいると、杏先生が助言をくれた。

「確かに、朋也の好きな物が貰えたら、朋也は嬉しいだろうけど…巴ちゃんが朋也の為に選んだ物なら、喜んで受けとると思うわ」

「もしそれが、とーさんのきらいなものでもか?」

その言葉を聞くと、杏先生は笑顔になって、

「あったりまえじゃない!」

と、言ってくれたのだった。













その後私は商店街に寄ってから、家に帰った。

「ただいま、かーさん」

台所に居るかーさんに私は声をかけてから、手を洗ってうがいをする。

これを忘れると「ひとりでそとにいってもいいけん」は一週間無くなってしまうから欠かせない。

「ああ、おかえり。目的の物は買えたか?」

「え? あ、ああ。かえた。すごくいいものがかえた」

今日のおでかけの目的はかーさんには言ってないはずだ。なのになんで…?

そんな私の疑問を読み取ったのか、答えを教えてくれた。

「ふふっ、巴の帰ってきた時の顔がな、昔の私そっくりだったんだ」

「わたしはかーさんのむすめだぞ?にていないほうがおかしいんじゃないか?」

「いや、そういう訳じゃない。さっきしてた表情、私が朋也にプレゼントを用意した時の顔にそっくりだ。時期も考えれば、大体分かってしまうぞ?」

「…やはりかーさんはてんさいだな!かーさんはすごい!」

「そうか?この辺りはどれだけ生きているかが大事なんだ。巴もきっと分かる日がくるさ」

そういうとかーさんは洗い物をしていた手を拭いて、私の頭を撫でてくれた。

「当日が楽しみだな?」

そう言った母の問いに、私は杏先生の笑顔のような顔をして、こう答えた。

「あったりまえだ!」





…喜んでくれるといいな、とーさん。









10月30日、岡崎家にて。

「とーさん、これがわたしのプレゼントだ」
「…巴、これは一体なんだ」
「うむ、わたしがとーさんによろこんでもらうためにえらんだものだ!」
「そ、そうか!ありがとな、巴!」
「うむ!たんじょーびぐらいはとーさんをよろこばせないとな!」
(ウコンの力のジョークグッズでウン◯の力とは…巴の教育をやり直さなくてはいけんかもしれん…)

という会話があったそうな。








没カット 古河パン(悠馬)編


次に私は、古河パンへと向かった。

あそこにもとーさんを高校時代から知っている人たちが居るはずだ。

そう思って、私は古河パンの扉を開けた。

昔から変わらないガラス戸がガラガラと音を立てて、来客を知らせる鈴が鳴った。

「いらっしゃい! …って、巴ちゃんか」

「ゆーまおじさんか。おひさしぶりだな」

店の中にはなぎささんと結婚したゆーまおじさんが店番していた。

「うん。久しぶりだ。僕がカメラの前に出ること自体久しぶりなんだけどね…」

「かめら?なんのはなしだ?」

「いやぁ、なんでもないよ。

 それで、今日はどのパンを買いに来たんだい?」

「きょーはぱんをかいにいたんじゃないんだ。

 なぎささんはいないのか?」

普段なら私や朋幸や翔が店に来たと分かると、店に出てきて何かくれたりするのだが、今日は出てこない。

「今日は渚もオッサンも早苗さんも出かけてるんだ。何か用だったかい?」

「そうだったか…じゃあ、またくる」

目的の人物が居ないのなら、もうここに用はない。

そう思いつつ古河パンを出た私の後ろから何か聞こえた気がするが、おそらくは気のせいだろう。

そう思いながら、私は次の目的地へ向かうのだった。



『俺って…結局こんな扱いかよ…」
そんな男の嘆きが、聞こえたとか聞こえないとか。


<没カット、了>




あとがき

今回、クロイ≠レイさんの「クロイ≠レイ製作所」内の「キネマクラナ座」にて行われた、「CLANNAD」に参加させて頂きました。
祭りだ祭りだ!とかいいつつ、キネマクラナ座では朋也と智代の長女であらせられる「岡崎巴」ちゃんを拉致連れてきて、主役としてしまいました。
祭りの終の文では名誉岡崎の称号を頂きまして、嬉しい限りです。
そして祭り提出用原稿からは没として削除した、キネマクラナ座で渚の夫である「古河悠馬」くんにも来てもらいました。削除しましたけど。復活したからいいよね。
祭りから随分と時間が経ってからの公開となってしまいました、申し訳ない。
これから溜まっているテキストを完成させていきたいと思います、お楽しみに。

以上、橘和板でした。



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