「んじゃ、わたしゃ帰るよ」

「ああ。いつもありがとな、小鳥」

湖太朗君に見送らながら、天王寺家を後にする。

十何年も繰りかえした行動。いつも通り。

そうして家に帰ってきた私は、これまたいつも通り、







天王寺家に付けられた、監視カメラのチェックを始めた。















「ヤンデレ小鳥ちゃん」















(はぁ…やっぱ湖太朗君はカッコいいなぁ‥)

鼻息を荒げながら、画面を凝視する少女。

傍から見れば…いや、よくよく見てもアブない少女なのだが、それを咎める者は居ない。

少女は留まる事を知らず、監視を続ける。

画面の中で愛しい人───天王寺湖太朗は小鳥が今日の最後の来客だったのだろう、風呂に入ろうとしているようだ。

着替えを準備して、風呂場へ向かう。

見られているなど露知らず、なんの恥ずかしげも無く服を脱ぎだす。

だが、実際は見られている訳で。

「あぁ、やっぱりたくましいね、湖太朗君…」

湖太朗は全裸になり、当然下半身も剥き出し。

ここでただの少女なら、下半身に手を伸ばして自慰を始めていたのかもしれない。

だが、神戸小鳥は違う。そんな域は既に突破しているのだ。

もはや芸術。そこまでに彼女の中で彼は昇華していたのだった。









風呂を終え、ベットの中に入り就寝する湖太朗。

「おやすみ、湖太朗君」

聞こえないおやすみを、毎日続ける。

これこそが、神戸小鳥の日常なのだった。









朝、起床時刻は湖太朗の10分前。

カメラ自体は24時間録画し続けているが、やはりリアルタイムで確認したい。

その考えにより、カメラを設置して以降は常にこの時間に起床しているのだった。

10分の間に学校へ登校できるように身支度を済ませる。

この動きももう十何年も繰り替えした事。焦ることも無く支度を終え、モニターの前に着席する。

平均起床時間の2分前に、本日の湖太朗は起床した。

先ほどの小鳥よりかはゆっくりと、朝の身支度を進める湖太朗。

何度見ても飽きることはない。恍惚の表情を毎朝浮かべる小鳥なのだった。

「…はっ。そういえばまだ今日のを決めてなかった」

そう呟くと(先に決めておかなかった自分を呪いつつ)一旦モニターの前を離れ、自室へと向かう。





リビングに機器類を設置しているおり、ほぼ常にモニター前に居る小鳥にとって、

もはや寝室として機能している小鳥の部屋にはもう一つ、魔物の保管場所という用途もある。

「今日は…お前で行くか」

リーフバードの一体を手に取り、ゲロイドの力をこめて契約する。

途端に命を吹き込まれたかのように羽ばたきだす。

「ほら、いけっ」

手を離し、大空へと飛んでいくリーフバード。目的地は天王寺家。

ここに保管されている魔物は全て、映像まで共有できる偵察型ばかりである。

用途は当然、湖太朗の観察。

この能力を与えてくれた運命には、感謝している。

ちっとも悲しくなんて思わない。











所変わって、学校。

ここは湖太朗との関わりをしっかり持てる安寧の場…だったのだが。

最近は闘争の場と化している。

原因は…オカルト研究会とかいう集まりに、湖太朗が参加した事だ。

実によろしくない。あんな女の子ばかりの集まりなんて。

しかもオカ研のメンバー全員が湖太朗に好意を抱きかけている。

まったくもってよろしくない。

湖太朗君に好意を向けるのは私だけでいいのだから。







「コタロー、一緒にお昼を」

ガスッ!

「あうっ」

昼休み、いつの間にかこっちの教室に来ていた静流ちゃんが動いていた。

他の誰にも、靜流ちゃん自身でさえ気づかれない速度で首に手刀。

ほんのわずかな脳震盪を起こす程度に加減して攻撃する。

これぐらいなら魔物やドルイドの力を使う必要なんて無い、今までの経験で十分だった。

「ん?何だ、靜流」

目が虚ろになっていた靜流ちゃんは、湖太朗君の声で意識を完全に取り戻した。

だが、頬に人差し指をつけ、少し考えた後、

「すまん。何を言おうといたか忘れてしまった」

「おいおい、大丈夫か?今からボケてちゃ将来大変だぞ?」

「大丈夫だ。心配しなくてもボケてない。…多分」

任務完了。そして私はお弁当を手に持ちつつ、

「湖太朗君、お昼食べよっか」

「あいよ」

湖太朗君と一緒にお昼。これは私だけの特権。

誰にも、渡さない。

渡す気なんて、一切ない。











放課後にも湖太朗君に忍び寄る女の影。

吉野君と遊んでたはずの湖太朗君が、委員長と人気の無い後者裏で二人きりになっていた。

魔物経由で会話を聞き取るに、遊びで使っていた缶を潰しているらしい…実によくない。

私は懐から常備しているコンパクト型のステルスリーフバードを取り出す。

ステルス型のリーフバードの中でもパワータイプを選択し、契約した後校舎裏に向けて放つ。

二人は今、缶を潰すという目的であそこに居る。

だったら、リーフバードで人知れず潰してしまえばいい。

「んで、ここを押せばいいのか?」

「そうだ。これを使えば簡単に缶を潰すことができる。まったく人類の発明とはすごいものだ」

「だよなー…あ、なんか楽しくなってきた」

「そうだろう?この楽しさが広まれば、もっともっと潰して捨てる人が増えると思うんだけどな」

むむ…仲睦まじい。あんな会話を湖太朗君としていいのは私だけなのに。

そうこうしている内に、新たなリーフバードが校舎裏に到着していた。

気配を悟られないように、音を立てずに二人の背後にある缶を潰していく。

「さて、と…あれ?もうこれだけだったか?」

「もう、ここまで潰していたのか。天王寺、もう私の使ったのは返してくるぞ」

「おう、分かった。さっさと済ましちまうよ」

「別に、もうちょっとゆっくりでもいいんだが…」

委員長が少し頬を赤らめながら、小声で呟く。

幸い湖太朗君には聞こえてないようなのでスルーしておく。

…命拾いしたね、委員長。















学校が終われば、今日も湖太朗君と一緒に帰って、家の前で別れる。

家に帰れば、カメラを使って見守る。

これをずっと、ずっと続けてきた。これからも辞める気なんてない。



















これが、私の日常。





















これは、私だけの特権。





























誰にも、渡さない。































コタロウクンハ、ワタシノモノ。





































おしまい












あとがき

お久しぶりです皆様、和板です。

今回はRewriteより、神戸さんちの小鳥さんにヤンじゃってる系女子になってもらいました。

…やめて!石投げないで!ヤンデレが書きたかったの!



Rewriteが発売されて結構時間が経ったように思えますが、皆様クリアはしましたか?

自分は初回限定版についてくる小説をプレイ前に読んで壮大な公式からのネタバレをくらいつつも一周クリアしました。

さて二周目を…と思い立ったのですが、積んでしまっているゲームのため断念。

他人のレビューで一番面白かったのは、

「Keyの皮を被ったロミオゲーでした。」という密林さんのレビューですかね。

様々な考察が展開されてますが、まぁここではこの辺にしときましょう。




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